「賢者タイム」にプロラクチンが関係している?|射精後の性欲喪失を泌尿器科専門医が解説
監修
小林知広
日本専門医機構認定 泌尿器科専門医
この記事の要約
✅ 射精後にプロラクチンが急上昇することは複数の研究で確認されている
✅ プロラクチンが性欲低下・不応期に関与している可能性が指摘されているが、主因と断定するには議論がある
✅ 賢者タイムがない男性は、射精後にプロラクチンが上昇しないという症例報告がある(1例)
✅ セックスよりオナニーの方が賢者タイムが深い理由は、ドーパミン差によるプロラクチン抑制の違いが一因と考えられているが、これも仮説段階
✅ プロラクチンを意図的に下げようとするのはNG。高プロラクチン血症は性欲低下・EDの原因になりうる
この記事を読むべき人:
- 賢者タイムが気になる方
- 射精後の眠気・無力感・性欲低下に悩む方
- プロラクチンというホルモンを知りたい方
- 性ホルモンと性機能の関係に興味がある方
読了時間:約5分
監修医師
小林 知広(こばやし ともひろ) 天拝坂こばやしクリニック 院長
保有資格:
- 日本専門医機構認定 泌尿器科専門医
- 日本メンズヘルス医学会認定 テストステロン治療認定医
賢者タイムとは
賢者タイムとは、射精した後に性欲が低下し、興奮状態にならない時間のことです。医学的には**「射精後不応期」**と呼びます。
射精後に訪れる、あの特有の感覚——
- なんとも言えない無力感・喪失感
- 自己嫌悪感
- とにかく眠い
- さっきまであれほどあった性欲がゼロになる
男性であれば多くの方が経験していることと思います。特にオナニーの後に顕著ですね。
セックスでも、射精後すぐに寝てしまったり、「もうイチャイチャしてくれるなよ…」と思ったりすること、ありますよね。パートナーの女性から批判されることも多い、あの状態です。
「今日は調子がいい!3回はいける気がする!」と思っていても、1回の射精で戦意(性欲)を完全に喪失してしまったことは、このブログをご覧の殿方なら一度は経験があるはずです。
賢者タイムはなぜ起こる?
進化的な自己防衛機構(仮説)
射精後の性欲喪失(賢者タイム)は、進化の過程でいつまでも性的衝動に盛っていないようにする自己防衛機構だ、という考え方があります。
進化生物学の観点からはそう考えられることがありますが、ヒトで直接証明されているわけではなく、有力な仮説のひとつです。
僕個人もその考え方に賛成です。
そして実際に、この賢者タイムを引き起こしているホルモンが明らかになってきています。
有力候補は「プロラクチン」——ただし仮説段階
賢者タイムを引き起こす要因として有力視されているホルモンがプロラクチンです。
プロラクチンは下垂体(脳の底部)から分泌されるホルモンで、本来は授乳中の女性で多く分泌されることで知られています。しかし男性でも分泌され、射精後に急激に上昇することが複数の研究で確認されています(Exton ら、Krüger ら)。
この射精後のプロラクチン急上昇が、性欲・興奮にブレーキをかけるメカニズムに関与している可能性が指摘されています。
ただし、ここは正直に言っておかなければなりません。
近年の動物実験(Valente ら 2021)では、プロラクチン濃度を薬理的に上昇させても不応期様の状態は誘導されず、プロラクチン放出を阻害しても射精後不応期は短縮されなかったと報告されています。著者らは「プロラクチンは射精後不応期の成立に、十分でも必要でもない」と結論づけており、プロラクチン単独で賢者タイムを説明しきれない可能性も出てきています。
つまり現時点では、
- 射精後にプロラクチンが上昇すること → 事実
- それが賢者タイムの主因であるかどうか → まだ議論中・仮説段階
という整理が正確です。とはいえ、プロラクチンが関与している可能性は十分にあり、有力な候補の一つであることには変わりありません。
賢者タイムがない男性の症例報告
非常に興味深い論文があります。
Absence of orgasm-induced prolactin secretion in a healthy multi-orgasmic male subject Kruger TH, et al. PubMed PMID: 11979330
これは、賢者タイムがなく、射精後も変わらず性欲を持ち、何度でも射精できる男性に、射精後のプロラクチン上昇がみられなかったという症例報告です。
つまり、
射精後のプロラクチン分泌 ↑ → 性欲が急低下 → 賢者タイム
という流れがある一方で、この男性では射精後もプロラクチンがほとんど上昇しなかったために賢者タイムが起こらず、最初の射精と同様に気持ちよく何度もオーガズムを迎えることができたとのこと。
1例の症例報告ではありますが、賢者タイムとプロラクチンの関係を示唆する非常に興味深いデータです。ただし「プロラクチンが上がらなければ必ず賢者タイムがない」と言い切れるわけではなく、あくまで「関連を示唆する例」として受け取るのが科学的に適切です。
セックスよりオナニーの方が賢者タイムが深いのはなぜ?
これも多くの殿方が感じていることではないでしょうか。個人的にも、オナニーの賢者タイムの方が深い気がします。
その理由のひとつとして、ドーパミンの違いが仮説として挙げられます。
- セックスでは、オナニーに比べてドーパミン(快楽・意欲のホルモン)がより多く分泌されると言われている
- ドーパミンはプロラクチンの分泌を抑制する作用がある(これは生理学的事実)
この2点を組み合わせると、
セックス → ドーパミン大量分泌 → プロラクチン上昇が抑えられる → 賢者タイムが浅い
オナニー → ドーパミンの分泌が相対的に少ない → プロラクチン上昇が抑えられにくい → 賢者タイムが深い
という流れが理論的には考えられます。
ただしこれは仮説であり、「セックスとオナニーでプロラクチン上昇パターンがどう違うか」「その差が賢者タイムの深さにどう影響するか」を直接検証したヒトでの高品質なデータはほとんどありません。体感とは一致しているような気もしますが、あくまで「仮説段階」として読んでいただければと思います。
プロラクチンを下げようとするのはNG
「じゃあプロラクチンを下げれば賢者タイムがなくなる?」と思った方もいるかもしれません。
しかし、正常なプロラクチン値の方が意図的にプロラクチンを下げることはやめてください。
プロラクチンは男性でも重要な役割を持つホルモンです。テストステロンや他のホルモンバランスにも影響します。
逆に、プロラクチンが病的に高値(高プロラクチン血症)の場合は、性欲低下・ED・テストステロン低下などの原因になることがあります。この場合は治療の対象です。
むしろ、賢者タイムはプロラクチンが正常に分泌されているサインとも言えます。プロラクチンに感謝しましょう(笑)
まとめ
- 射精後にプロラクチンが上昇することは事実。それが賢者タイムの主因かどうかはまだ議論中
- プロラクチンが上昇しない男性では賢者タイムが起きなかったという症例報告がある(1例)
- セックスよりオナニーで賢者タイムが深い理由は、ドーパミン差によるプロラクチン抑制の違いが候補として考えられているが仮説段階
- 賢者タイムは進化的に意味があると考えられている(有力な仮説)。プロラクチンを意図的に下げるのはNG
- 病的に高いプロラクチン(高プロラクチン血症)は性欲低下・EDの原因になりうる
「賢者タイム=プロラクチン」はとても分かりやすい説明で、今も多くの場面で使われています。エビデンスとしてはまだ仮説段階ですが、射精とホルモンの関係を学ぶ入口としては非常に良いテーマだと思っています。
今後の研究でオキシトシン・セロトニン・ノルアドレナリンなど他のホルモン・神経伝達物質との関係も明らかになっていくでしょう。引き続き注目していきます。
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監修者
天拝坂こばやしクリニック 院長 小林 知広(こばやし ともひろ)
日本専門医機構認定 泌尿器科専門医 日本メンズヘルス医学会認定 テストステロン治療認定医
参考文献
- Kruger TH, et al. Absence of orgasm-induced prolactin secretion in a healthy multi-orgasmic male subject. Int J Impot Res. 2002. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11979330/
- Exton MS, et al. Coitus-induced orgasm stimulates prolactin secretion in healthy subjects. Psychoneuroendocrinology. 2001.
- Kruger TH, et al. Specificity of the neuroendocrine response to orgasm during sexual arousal in men. J Endocrinol. 2003.
- Valente S, et al. No Evidence for Prolactin’s Involvement in the Post-ejaculatory Refractory Period(動物実験・プロラクチン否定的データ). 2021. https://synergyexplorers.org/ja/research/neurochemical-cycle-after-climax/post-climax-effects/post-climax-effects-prolactin/no-evidence-for-prolactins-involvement-in-the-post-ejaculatory-refractory-period/