【院長解説】慢性前立腺炎(CP/CPPS)とは。男性慢性骨盤痛症候群という疾患概念について。

小林知広

監修

小林知広

日本専門医機構認定 泌尿器科専門医

会陰部の痛み・違和感が続く理由と、専門医が考える診断と治療戦略

慢性前立腺炎(CP/CPPS)は、会陰部や陰部の痛み・違和感が長引く疾患です。近年は男性慢性痛症候群として疾患概念が整えられつつあります。なぜ治らないと感じるのか、診断の考え方、治療選択肢をガイドラインと原典に基づき泌尿器科専門医が詳しく解説します。


監修者プロフィール

天拝坂こばやしクリニック 院長
小林 知広
日本専門医機構認定 泌尿器科専門医
日本メンズヘルス医学会認定 テストステロン治療認定医


この記事の要約

結論①
慢性前立腺炎の多くは「細菌感染による炎症」ではなく、慢性骨盤痛症候群(CPPS)という機能性疾患です。

結論②
検査で異常が出にくく、抗菌薬が効かないことも多いため、「治らない病気」と誤解されがちです。

結論③
重要なのは、病名よりも「どの要素が症状に関与しているか」を整理し、治療を組み立てることです。


慢性前立腺炎とは何か

慢性前立腺炎とは、
会陰部・陰部・肛門周囲・下腹部の痛みや違和感が3か月以上持続する状態
を指します。

重要なのは、現在の医学ではこの疾患を
「前立腺の炎症が続いている病気」
とは捉えていない点です。

日本泌尿器科学会、AUA(米国泌尿器科学会)、EAU(欧州泌尿器科学会)いずれのガイドラインでも、
多くの症例は 慢性骨盤痛症候群(Chronic Pelvic Pain Syndrome:CPPS)
に分類されます。


NIH分類:慢性前立腺炎の“正式な整理”

1999年、NIH(米国国立衛生研究所)は前立腺炎を以下のように分類しました。

分類内容
Category I急性細菌性前立腺炎
Category II慢性細菌性前立腺炎
Category IIIA炎症性CPPS
Category IIIB非炎症性CPPS
Category IV無症候性炎症性前立腺炎

このうち、
外来で「治らない」「モヤモヤする」と相談される多くの患者さんはCategory III
に該当します。

つまり、
👉 細菌感染が証明されない
👉 明確な炎症所見がないことも多い
👉 それでも症状は強い

という特徴を持つ集団です。


なぜ「治らない」と感じるのか

慢性前立腺炎が難治に感じられる理由は、病態そのものにあります。

・尿検査、血液検査、画像検査で異常が出にくい
・抗菌薬を使っても改善しない
・症状が日によって変動する

このため、
「異常がない=問題ない」
「抗菌薬が効かない=原因不明」
と説明され、患者さんが不安を抱えたまま放置されるケースが少なくありません。


病態生理:原因は一つではない

AUA・EAUガイドラインでは、CP/CPPSを
多因子性疾患
と位置づけています。

関与すると考えられている要素には以下があります。

・前立腺や周囲組織の炎症残存
・骨盤底筋群の過緊張
・自律神経機能異常
・中枢性感作(痛みの増幅・記憶化)
・心理社会的ストレス

つまり、
「感染 → 炎症 → 痛み」
という単純なモデルでは説明できません。


診断の考え方:何を調べ、何を否定するのか

慢性前立腺炎の診断は、
何かを見つける診断ではなく、重大な疾患を除外した上での症候群診断
です。

除外すべき主な疾患

・前立腺がん
・急性尿路感染症
・尿路結石
・膀胱炎
・直腸・肛門疾患

PSA測定や尿検査は、
「異常を見つけるため」以上に
安心して治療を進めるため
に重要です。


治療の基本方針:単剤で治そうとしない

AUA・EAUともに、
CP/CPPSに対して 単一治療での完治を目指すべきではない
と明確に述べています。

治療の基本は
症状の要素を分解し、組み合わせて対応すること
です。


治療選択肢① 薬物療法

α1遮断薬

排尿症状や前立腺・膀胱頸部の緊張が関与している場合に使用されます。

抗菌薬

慢性細菌性前立腺炎(Category II)が疑われる場合に限定して使用します。
漫然投与は推奨されていません。

植物製剤(セルニルトンなど)

補助的治療として用いられますが、単独効果は限定的とされています。

漢方薬

冷え、下腹部違和感、自律神経症状を伴う場合に選択されることがあります。


治療選択肢② 非薬物療法・生活指導

実臨床では、薬以上に重要になることもあります。

・長時間の座位を避ける
・適度な運動
・ストレスマネジメント
・骨盤底筋の過緊張を意識した生活


UPOINTという考え方

UPOINTは、CP/CPPSを以下の6要素で評価する概念です。

  • Urinary
  • Psychosocial
  • Organ-specific
  • Infection
  • Neurologic/Systemic
  • Tenderness of skeletal muscles

患者さんごとに
「どこが強く関与しているか」
を見極めることで、治療の方向性が明確になります。


放置リスクと受診の意義

慢性前立腺炎は命に関わる疾患ではありません。
しかし、

・痛みの慢性化
・不安の増幅
・生活の質の低下

を招きやすい疾患です。

検査や診察の負担は比較的軽く、
一度専門医の視点で整理する価値は十分にあります。


まとめ:泌尿器科専門医が大切にしていること

慢性前立腺炎は、
「治す病気」というより
「整理し、付き合い方を整える病態」
です。

不要な不安を減らし、
現実的な改善を目指す。
そこに専門医の役割があります。


参考文献

  1. AUA Guideline: Male Chronic Pelvic Pain
    https://www.auanet.org/guidelines-and-quality/guidelines/male-chronic-pelvic-pain
  2. EAU Guidelines on Chronic Pelvic Pain 2024
    https://uroweb.org/guidelines/chronic-pelvic-pain
  3. NIH consensus definition and classification of prostatitis (JAMA 1999)
    https://doi.org/10.1001/jama.282.3.236
  4. MSD Manual:NIH分類
    https://www.msdmanuals.com/professional/multimedia/table/nih-consensus-classification-system-for-prostatitis
  5. Shoskes DA, et al. UPOINT system
    https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0090429508018049
  6. 日本化学療法学会雑誌 2019 総説
    https://www.chemotherapy.or.jp/journal/jjc/06801/068010143.pdf

https://gamma.app/embed/nejt3aq9p2iblgw

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