
肝斑にピコスポットを当てると濃くなる?シミ取りレーザーで悪化する理由
監修
小林知広
日本専門医機構認定 泌尿器科専門医
この記事の要約
肝斑に通常のシミ取りと同じようにピコスポットを照射すると、炎症後色素沈着や再燃によって濃くなることがあります。普通のシミとの違いと、なぜ強いレーザー刺激で悪化しうるのかを医学的に解説します。
「シミをレーザーで取れるなら、肝斑も強いレーザーで取ればいいのでは?」
美容皮膚科でよく出てくる疑問です。
しかし、肝斑は普通のシミ、特に老人性色素斑とは少し性格が違います。
肝斑に、老人性色素斑を取るときと同じような発想で強いスポット照射を行うと、一時的に薄くなっても、その後に濃くなったり、周囲にモヤっとした色素沈着が出たりすることがあります。
なぜでしょうか。
ポイントは、
「肝斑は、そこにメラニンが溜まっているだけの病変ではない」
ということです。
肝斑ではメラニンを作るメラノサイトだけでなく、基底膜、血管、真皮、炎症に関わる細胞など、皮膚全体の環境が変化しています。
そのため、強いレーザー刺激そのものが新たな色素沈着を引き起こすきっかけになる可能性があります。
今回は、
「なぜ肝斑にピコスポットを安易に当てると悪化することがあるのか」
を、できるだけ分かりやすく解説します。

この記事の要点
・肝斑は単にメラニンが溜まっただけのシミではありません
・肝斑ではメラノサイト活性化だけでなく、基底膜異常、血管増生、真皮の光老化性変化などが報告されています
・レーザーによる炎症は、炎症後色素沈着(PIH)の原因になります
・肝斑ではレーザー治療後のPIH、rebound hyperpigmentation、再発・増悪が報告されています
・ただし「ピコ秒レーザーだから肝斑が悪化する」という意味ではありません
・活動性肝斑に老人性色素斑と同じ発想で強い局所照射を行うことを慎重に考える必要があります
・低フルエンスやフラクショナルなど、肝斑治療を目的に設計された照射方法とは分けて考える必要があります

まず「普通のシミ」と肝斑は同じではありません
一般に「シミ」と呼ばれるものの中には、いくつもの病気が含まれています。
例えば、
・老人性色素斑
・雀卵斑、いわゆるそばかす
・肝斑
・炎症後色素沈着
などです。
見た目はどれも茶色く見えますが、原因や皮膚の中で起きていることは同じではありません。
老人性色素斑の場合
老人性色素斑では、紫外線などの影響によって局所的にメラニンが増えた病変をレーザーで狙うという考え方が比較的成立します。
そのため、境界のはっきりした老人性色素斑では、ピコスポットなどによる局所照射が治療選択肢になります。
肝斑の場合
一方の肝斑は、
「そこにあるメラニンだけを取り除けば終了」
という病変ではありません。
肝斑は紫外線・可視光、ホルモン、炎症、摩擦など複数の因子が関連する、慢性的で再燃しやすい色素異常症です。
つまり、
「色素そのもの」
だけではなく、
「色素を作りやすくなっている皮膚環境」
まで考える必要があります。
肝斑の皮膚では何が起きている?
肝斑というと、
「メラノサイトが活発になってメラニンが増える病気」
という説明が一般的です。
もちろん間違いではありません。
ただ、現在の研究では、それだけでは説明できないことが分かっています。
基底膜に異常がみられる
表皮と真皮の境界には「基底膜」という構造があります。
肝斑患者の皮膚を組織学的に調べた研究では、肝斑病変部の基底膜に高い頻度で障害が認められています。
Torres-Álvarezらの研究では、肝斑病変でD-PAS染色による評価で95.5%、type IV collagen染色による評価で83%に基底膜障害が報告されました。
つまり肝斑は、皮膚の表面にメラニンが増えているだけではなく、表皮と真皮の境界にも変化が起きている病態です。
血管も増えている
肝斑では血管成分の関与も報告されています。
韓国人女性50人を調べた研究では、肝斑病変部で周囲の皮膚より真皮血管の数や大きさが増加し、VEGFという血管新生に関係する因子の発現増加も確認されています。
肝斑は、
「メラニンだけの病気」
ではなく、
「メラノサイト、血管、真皮、基底膜などが関係する複合的な病態」
と考えた方が現在の病態理解に近いのです。
肥満細胞や光老化性変化も関係する
肝斑病変では、肥満細胞の増加やsolar elastosisと呼ばれる真皮の光老化性変化なども報告されています。
こうした研究を総合すると、肝斑では、
・メラノサイト
・ケラチノサイト
・線維芽細胞
・血管内皮細胞
・肥満細胞
などが互いに影響しながら色素形成に関係していると考えられています。
このため、表面に見えているメラニンだけを強く破壊しても、肝斑そのものを長期的にコントロールしたことにはならない場合があります。

ピコスポットでは何をしている?
ピコ秒レーザーは、非常に短い時間でレーザーエネルギーを照射し、主に光音響作用を利用して色素を細かく破砕するレーザーです。
老人性色素斑などでは、色素のある部分へピンポイントにエネルギーを照射する「ピコスポット」が使われます。
ここで大切なのは、
「ピコ秒だから皮膚に炎症が起こらない」
わけではないことです。
ピコ秒レーザーは周囲への熱影響を抑えやすい特徴がありますが、色素を破壊できるだけのエネルギーを皮膚へ与えている以上、照射部位には程度の差こそあれ炎症反応が起こり得ます。
なぜレーザーの炎症で肝斑が濃くなる?
レーザー治療後には、
「炎症後色素沈着」
が起こることがあります。
英語ではPost-inflammatory hyperpigmentation、略してPIHと呼びます。
炎症後色素沈着とは、皮膚に炎症や傷害が起きたあと、その部分にメラニンが増えて茶色く残る現象です。
PIHの程度には、
・炎症の強さ
・炎症の深さ
・表皮と真皮の境界部分の障害
・もともとの肌色
・メラノサイトの反応性
などが関係するとされています。
レーザーや光治療も、PIHを起こし得る医療的な刺激の一つです。
肝斑の皮膚は、もともと色素形成に関係する複数のシステムが変化しています。
そこへ強い局所刺激を加えると、
レーザー照射
↓
局所に炎症が起こる
↓
炎症に関連するさまざまなシグナルが発生する
↓
色素形成に影響する
↓
PIHや肝斑の再燃として濃く見える
という経過を取ることがあります。
ここで一つ、医学的に重要な注意があります。
「ピコスポット後の肝斑皮膚で、特定の炎症性サイトカインが上昇し、それによって肝斑が悪化する」
という一連の流れを直接証明した大規模研究があるわけではありません。
これは、肝斑の病理学的研究、PIHの研究、レーザー治療後の臨床経過を組み合わせると機序的に説明できる、という位置づけです。
実際にレーザー後の「戻り」や再発は報告されています
この問題は理論だけではありません。
レーザーによって一度肝斑が薄くなっても、その後に濃くなる「rebound hyperpigmentation」や再発が臨床研究で報告されています。
22例の研究では全例で再発
アジア人の肝斑22例に低フルエンス1064nm Q-switched Nd:YAGレーザーを行った研究があります。
治療直後には改善がみられました。
しかし経過観察中に、
・4人でrebound hyperpigmentation
・3人でまだらな色素脱失
が起こり、最終的には22人全員で肝斑の再発が確認されました。
これはピコ秒レーザーではなくQスイッチレーザーの研究です。
しかし、
「レーザーで現在のメラニンを減らすこと」
と、
「肝斑という再燃性の病態を長期的に抑えること」
は同じではないことを示す重要な研究です。

ピコ秒レーザーなら肝斑に安全?
ここは誤解しやすいところです。
「Qスイッチレーザーはダメだけど、ピコなら大丈夫」
という単純な話ではありません。
ピコ秒レーザーの研究でもPIHは報告されています
2023年に発表されたピコ秒レーザーのsystematic review・meta-analysisでは、6件のランダム化比較試験が解析されました。
1064nmのピコ秒レーザーでは改善を示す結果がみられた一方、755nmピコ秒レーザーは外用治療を有意に上回らず、PIHも報告されています。
研究間の異質性も大きく、結果をすべての機種・設定にそのまま当てはめることはできません。
2年間追跡した研究では再発・増悪が約59%
2024年には、
755nmピコ秒アレキサンドライトレーザー
と
1064nm Q-switched Nd:YAGレーザー
を顔の左右で比較し、2年間追跡した研究が報告されています。
最終的に17人が評価され、10人、58.82%で肝斑の再発または増悪が認められました。
ただし、再発・増悪率について2種類のレーザーの間に統計学的な有意差はありませんでした。
また、RCMという特殊な画像検査では、ピコ秒アレキサンドライトレーザー照射側で治療2週、4週後に多数の樹状細胞様メラノサイト所見が観察されています。
非常に興味深い所見ですが、
「この細胞所見が原因で2年後に肝斑が再発した」
と証明されたわけではありません。
2026年の大規模解析でも「ピコレーザー万能」ではありません
2026年に発表されたsystematic review・meta-analysisでは、レーザーを用いた肝斑治療52研究、1,058人が解析されています。
レーザー治療全体では、対照群を上回る改善は統計学的に有意ではありませんでした。
サブグループでは低フルエンス1064nm Q-switched Nd:YAGに改善シグナルがみられましたが、ピコ秒レーザーは対照治療を有意に上回りませんでした。
さらに、研究によって使用するレーザー、波長、出力、回数、併用治療などが大きく異なります。
つまり現在のエビデンスからは、
「ピコ秒レーザーなら肝斑を安全かつ確実に治療できる」
とは言えません。
では「肝斑にピコスポットを当てると悪化する」は証明されている?
老人性色素斑に使用するような高フルエンスの局所ピコスポット照射を、活動性肝斑に直接照射した場合の「悪化率」を、大規模なランダム化比較試験で直接測定したデータは十分ではありません。
そのため、
「肝斑にピコスポットを当てると何%悪化する」
とは言えません。
一方で、
・肝斑は単純な表皮メラニン蓄積ではない
・肝斑には基底膜、血管、炎症など複数の病態が関係する
・レーザーによる炎症はPIHの原因となり得る
・肝斑へのレーザー治療後にPIH、rebound hyperpigmentation、再発、増悪が報告されている
という複数の事実があります。
これらを踏まえると、
「活動性の肝斑に、老人性色素斑と同じ発想で侵襲的な局所色素破壊を行うことは慎重に考えるべき」
というのが臨床的に妥当な結論です。
H2:「ピコレーザー=肝斑にダメ」ではありません
もう一つ大切なのがここです。
ピコ秒レーザーそのものが悪いわけではありません。
「ピコスポット」と、
「肝斑治療を目的として設定されたピコ秒レーザー照射」
は分けて考える必要があります。
レーザー治療では、
・波長
・フルエンス
・スポット径
・照射方法
・照射回数
・治療間隔
・肝斑の活動性
・肌タイプ
・併用治療
によって結果が変わります。
低フルエンス照射やフラクショナル照射など、肝斑を対象として研究されている方法もあります。
ただし、これらも再発やPIHなどのリスクがゼロではありません。
2026年の国際的なDelphiコンセンサスでも、肝斑治療では光防御や外用治療などを基本とし、レーザーは主に他の治療で十分な反応が得られない難治例に検討する位置づけとされています。
H2:肝斑の上に普通のシミが重なっていることがあります
実際の美容皮膚科診療で難しいのが、このパターンです。
例えば頬に、
・肝斑
・老人性色素斑
・そばかす
・炎症後色素沈着
が混在していることがあります。
患者さんから見ると、
「全部同じ茶色いシミ」
に見えるかもしれません。
しかし治療方法は同じではありません。
例えば、うっすら広がる肝斑の上に境界のはっきりした老人性色素斑が重なっている場合。
目立つシミだけを強いスポット照射で治療すると、
老人性色素斑は薄くなる
↓
その周囲に炎症が起こる
↓
背景にあった肝斑やPIHが目立ってくる
↓
「シミ取りをしたら逆に頬全体が濃くなった」
ということがあります。
だからこそ、シミ取りではレーザーの機種だけではなく、
「何のシミなのかを診断すること」
が非常に大切です。
H2:患者さんへの説明なら「色素工場」で考えると分かりやすい
私は患者さんには、次のように考えてもらうと分かりやすいと思います。
普通の老人性色素斑は、
「そこに増えている色素を狙って壊す」
という治療が比較的向いています。
一方、肝斑は、
「色素を作る工場そのものが刺激に敏感になっている」
ような状態です。
そこへ強いレーザーを当てると、
今あるメラニンは壊せても、
同時に皮膚へ炎症刺激を与えてしまうことがあります。
すると、
「またメラニンを作ろう」
という反応が起こり、PIHや肝斑の再燃として濃く見えることがあります。
医学的にはもっと複雑ですが、患者さんへの説明としてはこのイメージが分かりやすいと思います。
肝斑は「強く治療すれば早く消える」病気ではありません
肝斑治療で大切なのは、
「どれだけ強い治療をするか」
ではありません。
むしろ、
「刺激を増やさず、色素を作りやすい状態をどのように落ち着かせていくか」
という考え方が重要です。
肝斑は紫外線や可視光、ホルモン、炎症など複数の要因が関係し、再燃することがあります。
そのため、2026年の国際コンセンサスでも光防御や外用治療などを治療の中心とし、レーザーは難治例で慎重に検討する位置づけです。
肝斑治療については、遮光、外用薬、トラネキサム酸、各種施術など複数の選択肢があります。
それぞれの治療については別の記事で詳しく解説します。
よくある質問
肝斑にピコスポットを当てると必ず濃くなりますか?
必ず悪化するわけではありません。
一方、肝斑は炎症刺激によってPIHや再燃を起こす可能性があるため、活動性の肝斑に老人性色素斑と同じ発想で強い局所照射を行うことは慎重に判断する必要があります。
ピコレーザーなら肝斑にも安全ですか?
「ピコ秒」というだけで安全性が決まるわけではありません。
波長、出力、照射方法、照射回数、肝斑の状態などによって結果は変わります。
ピコ秒レーザーを肝斑治療に用いた臨床研究もありますが、PIHや再発・増悪が報告された研究もあります。
肝斑と普通のシミは自分で見分けられますか?
典型的な肝斑は、頬骨周辺などに左右対称にモヤっと広がる褐色斑としてみられます。
一方、実際には老人性色素斑、そばかす、炎症後色素沈着などが混在していることも多く、写真や自己判断だけでは難しい場合があります。
レーザー治療前に医師が診断することが大切です。
肝斑があったらシミ取りレーザーは一切できませんか?
一概には言えません。
肝斑の範囲や活動性、老人性色素斑との位置関係などを確認したうえで判断します。
重要なのは、
「肝斑があるのに、顔の茶色い部分をすべて同じ設定で照射する」
という治療を避けることです。
シミ取りをしたあと周囲が濃くなったら、全部肝斑ですか?
そうとは限りません。
レーザー治療後にはPIHが起こることがあります。
肝斑の再燃、PIH、残存したシミなどでは対応が異なるため、自己判断でさらに強いレーザーを重ねるのではなく、一度状態を確認することをおすすめします。
まとめ
肝斑にピコスポットを安易に当てない理由は、
「ピコレーザーだから危険」
という単純な話ではありません。
肝斑そのものが、
・メラノサイト活性化
・基底膜異常
・真皮の光老化性変化
・血管増生
・炎症に関連する細胞やシグナル
などが関わる、複合的で再燃しやすい色素異常症だからです。
レーザー治療による炎症はPIHを起こすことがあり、肝斑治療でもrebound hyperpigmentation、再発、増悪などが報告されています。
一方、
「高フルエンスのピコスポットを活動性肝斑に当てると、何%の患者さんで悪化する」
という直接的な高品質データが十分にあるわけではありません。
したがって医学的には、
「肝斑にピコスポットを当てると必ず悪化する」
ではなく、
「肝斑の病態とレーザー後PIH・再燃のデータを考えると、活動性肝斑に対する侵襲的な局所色素破壊は慎重に判断すべき」
という表現が正確です。
そして最も大切なのは、
「茶色いものを全部シミとしてレーザーで取る」
のではなく、
「何の色素斑なのかを診断してから治療を選ぶ」
ことです。
天拝坂こばやしクリニックでは、シミ・そばかす・肝斑などの状態を確認し、それぞれの病変に応じて治療方法を検討します。
太宰府市、筑紫野市、大野城市、春日市、小郡市周辺で、シミ取りや肝斑について気になる方はご相談ください。

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監修者情報
小林 知広(こばやし ともひろ)
天拝坂こばやしクリニック 院長
日本専門医機構認定 泌尿器科専門医
1984年 広島県尾道市生まれ
2009年 島根大学医学部卒業
獨協医科大学越谷病院 泌尿器科 助教として勤務
美容研鑽のため美容クリニック副院長として勤務
その後、京都ルネス病院 泌尿器科医長を経て、2024年10月 天拝坂こばやしクリニック開院
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