男性ホルモン補充療法でAGAは進む?予防と対策を医師解説

監修

小林知広

日本専門医機構認定 泌尿器科専門医


この記事の要約

TRT(テストステロン補充療法)は投与法によって体内のDHT(ジヒドロテストステロン)を増やしうる。素因のある方でAGA(男性型脱毛症)が顕在化・進行することがある

「TRT=必ず薄毛になる」わけではない。臨床的にはよく相談されるテーマだが、因果関係を示す高品質な研究は限定的

デュタステリドやフィナステリドでDHTを抑えることは理論的に有効で、臨床的にも広く行われている対策

TRTとAGAを直接結びつけたガイドラインの明確な推奨は乏しく、現時点では臨床経験に基づく対応が中心

結論 男性ホルモンを補充してAGAが進行する(はげる)というエビデンスレベルの高い報告は乏しいが、臨床的によく遭遇するのでAGA治療薬を併用することはよくあること。男性ホルモンを補充すると必ず禿げるわけではないが、リスクと対策の準備は必要です。

対象読者:テストステロン補充療法を受けている/検討中で、薄毛が気になる男性
読了時間:約6分


監修者(簡易版)

天拝坂こばやしクリニック 院長 小林 知広

  • 日本専門医機構認定 泌尿器科専門医
  • 日本メンズヘルス医学会認定 テストステロン治療認定医

はじめに

「テストステロンを補充したら、髪が薄くなってきた気がする」——男性更年期(LOH症候群)やEDの治療でテストステロン補充療法(TRT)を受けている方から、外来でときどきいただくご相談です。せっかく元気を取り戻したのに薄毛が気になる、というのは切実なお悩みだと思います。

結論からお伝えすると、TRTで薄毛(AGA)が進む可能性は生理学的な仕組みとしてはあり得ますが、「TRTが原因でAGAが引き起こされる」と明確に示した質の高い研究は、実はまだ限られています。

この記事では、この関係について分かっている範囲と、まだ分かっていない範囲を分けたうえで、デュタステリドを用いた対策について解説します。


目次

  1. テストステロン補充とAGAの関係とは
  2. なぜ補充で薄毛が進みうるのか(仕組み)
  3. 全員が薄毛になるわけではありません
  4. 予防・対策:デュタステリドという選択肢
  5. 費用の目安
  6. 主な副作用・リスク・禁忌
  7. 承認状況と個人輸入のリスク
  8. 院長の臨床実感
  9. よくある質問(FAQ)
  10. 受診の流れ

テストステロン補充とAGAの関係とは

【結論】 テストステロン補充療法(TRT)は、投与法によっては体内で薄毛の主因となる男性ホルモン「DHT(ジヒドロテストステロン)」を増やすことがあり、遺伝的素因のある方ではAGA(男性型脱毛症)が顕在化・進行することがあります。ただし、TRTがAGAを引き起こすことを示す質の高い臨床研究(RCT)は限られており、「よく知られた確立した副作用」と言い切るにはまだ根拠が十分ではありません。

AGA(男性型脱毛症)は、額の生え際や頭頂部の髪が徐々に細く短くなり(軟毛化・ミニチュア化)、薄くなっていく進行性の状態です。その中心的な原因物質が、テストステロンから作られるDHTであることは、高いエビデンスで確立しています。


なぜ補充で薄毛が進みうるのか(仕組み)

【結論】 テストステロンは「5α還元酵素」という酵素によってDHTに変換されます。DHTは毛包(髪の根元)の受容体に結合し、髪の成長期を短くして軟毛化を進めます。TRTでテストステロンが増えると、DHTの材料も増える可能性がありますが、血中DHTがどの程度増えるかは投与方法によって異なります

もう少し詳しく説明します。DHTはテストステロンよりも男性ホルモン受容体への結合力が強く、より強力に作用する男性ホルモンです。このDHTが、遺伝的に感受性の高い毛包に作用すると、髪が十分に育つ前に抜けるサイクル(毛包のミニチュア化)が進みます。

ここで重要な補足があります。「TRTでDHTが必ず増える」というのは正確ではありません

  • 注射剤によるTRT:血中DHTは軽度上昇、あるいはほぼ不変にとどまることがある
  • 経皮製剤(塗り薬・ジェルなど)によるTRT:皮膚で5α還元が起こりやすく、DHTが上昇しやすい傾向がある

つまり、投与方法によってDHTへの影響は変わるため、「TRT=一律にDHTが急増して薄毛が進む」という単純な図式ではない、という点をご理解ください。


全員が薄毛になるわけではありません

【結論】 TRTを受けた方が全員AGAになるわけではありません。AGAは毛包のDHT感受性など遺伝的素因が関わるため、素因のある方で進みやすく、素因のない方では大きく進まないこともあります。「補充=必ず薄毛」ではない、という点は誤解されやすいところです。

ご家族に薄毛の方がいる、もともと生え際や頭頂部が気になり始めていた、という場合は素因がある可能性があります。ご自身がどのタイプかは、頭皮・毛髪の状態を診察することである程度判断できます。気になる方は治療開始前・開始後に相談いただくのがおすすめです。

現時点での臨床的な理解を正確に言うと、「TRTがAGAを新たに引き起こす」というより、「もともと素因のある毛包でAGAが顕在化・進行を助長される」という整理がより実態に近いと考えられています。


予防・対策:デュタステリドという選択肢

【結論】 対策の中心は、DHTの産生をブロックする5α還元酵素阻害薬(デュタステリド/フィナステリド)です。これらはDHTを抑える一方で血中テストステロンはほぼ維持されるため、TRTの効果(意欲・筋力・性機能など)を保ちながら、薄毛だけに対策できるのが利点です。この対策は理論的に合理的であり、臨床的にも広く行われていますが、「TRT併用時に薄毛の進行を防ぐ」ことを直接検証した大規模研究はまだ不足しています。

薄毛の原因がDHTである以上、DHTを作る酵素(5α還元酵素)を抑えるのは理にかなった対策です。代表的な内服薬が2種類あります。

フィナステリド(販売名:プロペシア®) 5α還元酵素のうちII型を阻害します。血中DHTを約60〜70%抑えると報告されています。日本ではAGA治療薬として承認されています。

デュタステリド(販売名:ザガーロ®) 5α還元酵素のI型・II型の両方を阻害します。I型は皮脂腺・全身の皮膚に、II型は毛包(前頭部・頭頂部)に多く分布するため、両方を抑えるデュタステリドはより広くDHTを抑えられます(血中DHT抑制は約90%以上)。日本では2015年にAGA治療薬(0.5mg)として承認されています。

臨床試験(917名・日本人200名を含む・24週間)では、頭頂部(直径2.54cm円内)の発毛本数がフィナステリド1mgで56.5本だったのに対し、デュタステリド0.5mgでは89.6本と、より高い発毛効果が報告されています(出典:Gubelin Harcha W, et al. J Am Acad Dermatol. 2014;70(3):489-498. PMID: 24411083)。ただし効果には個人差があり、どちらを選ぶかは薄毛の程度・副作用の傾向・費用を踏まえて相談のうえ決めます。

なお、TRTとフィナステリドを併用した小規模研究(Amory et al., 2007, n=60)では、筋力・骨密度の改善は維持されつつ前立腺体積の増加が抑制されたことが報告されていますが、AGAの進行抑制そのものを目的にTRT併用を検証した大規模研究はまだ不足しているのが実情です。

フィナステリドとデュタステリドの比較

一般名販売名阻害する酵素血中DHT抑制の目安日本でのAGA承認
フィナステリドプロペシア®II型のみ約60〜70%承認あり
デュタステリドザガーロ®I型・II型約90%以上承認あり(0.5mg・2015年)

※数値は文献に基づく目安であり、効果・副作用には個人差があります。

重要なのは、これらの薬はDHTを抑えても血中テストステロンをほとんど下げないという点です。そのため、TRTで得た体調の改善を保ちながら、頭皮のDHTだけを抑える、という両立が理論上可能です。


費用の目安【自由診療】

TRTおよびAGA内服薬(デュタステリド/フィナステリド)は、いずれも自由診療(公的医療保険の適用外・全額自己負担)です。

  • テストステロン補充療法(注射):【要確認:金額】/回(税込)
  • デュタステリド(ザガーロ®)内服:【要確認:金額】/月(税込)
  • フィナステリド(プロペシア®)内服:【要確認:金額】/月(税込)
  • 診察料:【要確認:金額】(税込)

※料金・投与間隔・期間は院長確認済みの数値のみを記載します。詳細は診察時にご確認ください。


主な副作用・リスク・禁忌

5α還元酵素阻害薬(デュタステリド/フィナステリド)

主な副作用:性欲減退・勃起機能の低下・射精量の減少などの性機能関連症状が一部の方に生じることがあります(頻度は低いものの、TRTの目的が性機能改善である場合は特に事前の相談が大切です)。ほかに乳房の張り・不快感など。

検査への影響:これらの薬はPSA(前立腺がんの腫瘍マーカー)値を約半分に低下させます。前立腺の検査を受ける際は服用中であることを必ず医師にお伝えください(当院は泌尿器科として、この点を踏まえた前立腺の管理を行えます)。

禁忌・注意:女性(特に妊娠中・妊娠可能な女性)および小児は使用・接触ともに不可です(男児胎児の生殖器形成に影響する可能性があるため)。カプセルからの成分吸収を避けるため、女性は割れたカプセルに触れないでください。重度の肝機能障害のある方は慎重投与です。服用中および中止後一定期間は献血ができません。

テストステロン補充療法(TRT)

主な副作用:多血症(血液が濃くなる/ヘマトクリット上昇)、ニキビ・脂性肌、体液貯留、女性化乳房、精子形成の抑制(挙児を希望される方は要注意)、睡眠時無呼吸の悪化など。前述の通り、素因のある方ではAGA(薄毛)の顕在化・進行がみられることがあります

禁忌・注意:前立腺がん・乳がんのある方または疑いのある方、コントロール不良の多血症などでは行いません。TRT中はPSA・ヘマトクリット等の定期的なモニタリングが必要です。

副作用・禁忌は添付文書に基づく代表的なものです。すべてを網羅するものではなく、実際の適否は診察のうえで判断します。


承認状況と個人輸入のリスク

デュタステリド(ザガーロ®)・フィナステリド(プロペシア®)は、いずれも日本国内でAGA治療薬として承認された医薬品です(美容・自由診療としての処方となります)。

一方で、これらの薬やテストステロン製剤を個人輸入で入手する方がいますが、偽造薬・品質不良のリスクがあり、健康被害が起きても医薬品副作用被害救済制度の対象外です。医療機関での診察・処方を強くおすすめします。


院長の臨床実感

獨協医科大学越谷病院で男性更年期・性機能外来を専門的に担当して以来、テストステロン補充療法に長く携わってきました。外来では「TRTで元気は出たけれど、髪が気になってきた」というご相談は珍しくありません。

ただし、これは大規模な臨床研究で因果関係が確立されているというより、臨床現場でよく話題になるテーマというのが正確なところです。多くの場合、DHTを抑える内服を併用することで、補充による体調改善を保ちながら薄毛の進行に対策できているという臨床経験があります。

一例です。すべての方に同様の結果が得られるわけではありません。実際の治療は、素因・目的(挙児希望の有無など)・副作用の傾向を踏まえて個別に組み立てます。


よくある質問(FAQ)

Q. テストステロン補充をやめれば髪は元に戻りますか? A. AGAは進行性のため、補充を中止しても自然に戻るとは限りません。気になる場合は中止よりも、DHTを抑える対策の併用をご相談ください。

Q. TRTを受けたら必ず薄毛になりますか? A. いいえ。AGAは遺伝的素因が大きく関わるため、素因のない方では大きく進行しないこともあります。また、TRTとAGA進行の因果関係を明確に示した大規模研究はまだ限られています。

Q. 保険は使えますか? A. TRT・AGA内服薬はいずれも自由診療(保険適用外)です。費用は診察時にご確認ください。

Q. 補充をしていなくてもAGAの相談はできますか? A. もちろん可能です。AGA単独の治療にも対応しています。

Q. デュタステリドとフィナステリド、どちらがよいですか? A. 薄毛の程度・副作用の傾向・費用を踏まえて相談のうえ決めます。効果には個人差があります。


受診の流れ

当院は完全予約制で、プライバシーに配慮した診療を行っています。デジスマ診療の導入により、会計時の待ち時間の短縮に努めています。デリケートなお悩みですが、外来では日常的なご相談です。どうぞお気軽にご相談ください。


関連情報

TRTの背景には男性更年期(LOH症候群)があることも多く、薄毛以外の不調(意欲低下・倦怠感など)が気になる方は、男性更年期の診療もあわせてご相談いただけます。


関連記事(当院コラム)


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監修者(完全版)

天拝坂こばやしクリニック 院長 小林 知広(こばやし ともひろ)

  • 日本専門医機構認定 泌尿器科専門医
  • 日本メンズヘルス医学会認定 テストステロン治療認定医

獨協医科大学越谷病院にて男性不妊・男性更年期・性機能外来を専門的に担当。2015年 第34回日本アンドロロジー学会学術大会 臨床部門学会賞 受賞。PubMed収載英語論文3本。

※完全版の経歴は医師紹介ページに準拠:https://tenkoba.clinic/doctor/


参考文献

  1. Gubelin Harcha W, et al. A randomized, active- and placebo-controlled study of the efficacy and safety of different doses of dutasteride versus placebo and finasteride in the treatment of male subjects with androgenetic alopecia. J Am Acad Dermatol. 2014;70(3):489-498.e3. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24411083/
  2. Olsen EA, et al. The importance of dual 5alpha-reductase inhibition in the treatment of male pattern hair loss: results of a randomized placebo-controlled study of dutasteride versus finasteride. J Am Acad Dermatol. 2006;55(6):1014-1023.
  3. Dhurat R, et al. 5-Alpha reductase inhibitors in androgenetic alopecia: Shifting paradigms, current concepts, comparative efficacy, and safety. Dermatol Ther. 2020;33(3):e13379. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32279398/
  4. Coskuner ER, et al. Sexual Problems of Men With Androgenic Alopecia Treated With 5-Alpha Reductase Inhibitors. Sex Med Rev. 2019;7(2):277-282.
  5. Amory JK, et al. Exogenous testosterone or testosterone with finasteride increases bone mineral density in older men with low serum testosterone. J Clin Endocrinol Metab. 2004. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17299062/
  6. Bhasin S, et al. Testosterone Therapy in Men With Hypogonadism: An Endocrine Society Clinical Practice Guideline. J Clin Endocrinol Metab. 2018;103(5):1715-1744. https://academic.oup.com/jcem/article/103/5/1715/4939465
  7. 日本皮膚科学会. 男性型脱毛症診療ガイドライン 2017.


最終更新:2026年7月 次回更新予定:2027年7月(ガイドライン改訂時は随時)

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