前立腺の薬で精液が出ない?α1ブロッカーと射精のメカニズムを泌尿器科専門医が解説

監修

小林知広

日本専門医機構認定 泌尿器科専門医

この記事の要約

  • 前立腺肥大症の治療薬「α1ブロッカー」の一部は、射精障害(精液が出ない・減る)を起こすことがあります
  • 特にα1A選択性の高い「シロドシン(ユリーフ)」、次いで「タムスロシン(ハルナール)」で射精障害が比較的多いとされています
  • 多くは精液が出ない・減る「dry ejaculation(無精液射精)」で、必ずしも逆行性射精とは限りません
  • オーガズムは多くの場合保たれますが、一部で満足度低下を自覚することもあります
  • 身体的な害はほとんどなく、薬の変更・調整で改善できるケースが多いです。自己判断で急に中止するのは避け、まず主治医に相談してください

この記事を読むべき人:前立腺肥大症の薬を飲み始めてから射精に変化があった方、α1ブロッカー・ユリーフ・ハルナールなどを服用中の方、精液が出ない・減ったことに不安を感じている方、前立腺の薬と性機能の関係を知りたい方

読了時間:約7分


監修医師

小林 知広(こばやし ともひろ)
天拝坂こばやしクリニック 院長

保有資格:日本専門医機構認定 泌尿器科専門医/日本メンズヘルス医学会認定 テストステロン治療認定医

院長はアンドロロジー(男性医学)を専門とし、射精障害・ED・男性更年期を専門的に診療してきました。前立腺肥大症の治療と性機能の両立について、多くの相談に対応しています。


「薬を飲み始めたら精液が出なくなった」

前立腺肥大症の治療を始めた男性から、こんな相談をよく受けます。

「薬を飲み始めてから、射精のときに精液が出なくなった」
「量が明らかに減った」
「これは大丈夫なのか?」

結論から言うと、これは前立腺肥大症の治療薬(α1ブロッカー)の一部で起こる、比較的よく知られた現象です。そして多くの場合、身体的な害はなく、薬の調整で改善できます。

ただ、不安なまま自己判断で薬をやめてしまう方もいます。前立腺肥大症の治療薬は症状悪化を防ぐ役割があるため、気になる変化があっても、まずは主治医に相談することをおすすめします。

この記事では、α1ブロッカーと射精障害の関係を、アンドロロジーの視点から分かりやすく解説します。

α1ブロッカーとは

α1ブロッカー(アルファ1遮断薬)は、前立腺肥大症の治療で最もよく使われる薬です。前立腺や尿道の平滑筋をゆるめることで、尿の通り道を広げ、おしっこを出しやすくする働きがあります。

代表的なα1ブロッカー

一般名主な商品名
シロドシンユリーフ
タムスロシンハルナール
ナフトピジルフリバス

これらは前立腺肥大症による排尿症状(尿が出にくい・頻尿・残尿感)を改善する、非常に有用な薬です。海外では、これら以外にアルフゾシン・ドキサゾシン・テラゾシンなどが使われることもあります。

なぜα1ブロッカーで射精障害が起こるのか

射精のメカニズム

射精は、実は2つの段階に分かれています。

  1. 精液の集合(emission・エミッション):精子と精液が尿道の一部(後部尿道)に集められます。このとき、膀胱の出口(膀胱頸部)が閉じて、精液が膀胱側に逆流しないようにします。
  2. 射出(ejaculation・イジャキュレーション):筋肉の収縮で精液が体外に押し出されます。

α1受容体が関わっている

この「精液の集合」と「膀胱頸部を閉じる」動きには、α1受容体という交感神経のスイッチが関わっています。α1ブロッカーはこのスイッチをブロックするため、射精のプロセスに影響が出ます。ポイントは、影響の出方が薬によって異なるということです。

「精液が出ない」は2つのパターンがある

α1ブロッカーによる射精障害には、大きく2つのパターンがあります。ここは誤解されやすいので、正確に説明します。

① dry ejaculation・無精液射精(精液集合の抑制)── シロドシンで多い

精液がそもそも尿道に集まってこないために、射精時に精液がほとんど出ない、または全く出ない状態です。シロドシン(ユリーフ)による射精障害は、この「精液集合(emission)の抑制」が主体であることが研究で示されています。

  • 健常男性を対象とした二重盲検クロスオーバー試験(15例)では、シロドシン投与下で全例が無精液射精(anejaculation)となった
  • 射精後の尿を調べても精子がほとんど見られず、膀胱への逆流(逆行性射精)ではないと結論づけられた
  • 投与を中止すると数日で回復した(可逆的)

つまり、「膀胱に逆流している」のではなく「そもそも精液が集まってこない」というのが、シロドシンによる射精障害の主なメカニズムです。

② 逆行性射精(膀胱頸部の閉鎖不全)

膀胱頸部が十分に閉じないために、精液が体外ではなく膀胱の方へ逆流するパターンです。こちらの場合は、射精後の尿が白く濁ります(精液が混じるため)。

α1ブロッカーによる射精障害は、従来「逆行性射精」とひとまとめに呼ばれてきましたが、実際にはその多くが精液量の低下や無精液射精であり、真の意味での膀胱への逆流を伴うとは限らないことが分かってきています。

身体的な害はある?

どちらのパターンでも、身体的な害はほとんどありません。

  • dry ejaculation(無精液射精):精液が出ないだけで、痛みや健康被害はない
  • 逆行性射精:膀胱に入った精液は次の排尿で排出されるだけ

オーガズム(性的な絶頂感)については、健常男性を対象とした試験では多くの場合保たれると報告されています。ただし、実際の診療の場では、一部の方が満足度の低下やオーガズムの質の変化を自覚することもあります。「精液が出ない・減る」という変化が主ですが、感じ方には個人差があることも知っておいていただきたい点です。

なお、精液量の低下や射精力の低下は妊孕性(妊娠する力)に影響しうる変化でもあります。妊娠を希望している場合は、精液が外に出ないことで自然妊娠が難しくなるため、対応が必要になります。

薬によって射精障害の頻度は違う

α1ブロッカーの中でも、射精障害の頻度には明確な差があります。

シロドシン(ユリーフ)・タムスロシン(ハルナール)── 頻度が高い

シロドシン・タムスロシンは、いずれもα1A受容体への選択性が高いタイプのα1ブロッカーです。この選択性の高さが排尿症状への効果を強くする一方で、射精障害の頻度も高くすることが分かっています。

海外のガイドラインをまとめたデータでは、プラセボ(偽薬)と比較して、タムスロシンで約8.6倍、シロドシンで約32.5倍という高い頻度で射精障害が報告されており、α1A選択性が高い薬ほど射精障害が起こりやすいという傾向がはっきりと示されています。

つまり、「タムスロシンは射精障害が少ない」というのは正確ではなく、シロドシンほどではないものの、タムスロシンも射精障害が比較的多い薬として位置づけられます。

ナフトピジル(フリバス)── 頻度は低め

ナフトピジル(フリバス)はα1D受容体への選択性が高く、シロドシンと比較した試験では射精障害の頻度が低い傾向にあることが示されています。射精障害が問題になる場合、ナフトピジルのようなα1D選択性の高い薬へ変更することで改善できる可能性があります。

射精の変化が気になったらどうする?

自己判断で急に中止しない

射精の変化が気になっても、自己判断で薬を急に中止することは避けましょう。α1ブロッカーは前立腺肥大症による排尿困難・頻尿の症状を抑える薬であり、中止すると症状が再燃することがあります。ただし、射精障害を理由に数日休薬した程度で、ただちに尿が全く出なくなる「尿閉」に至るというわけではありません。心配な変化があれば、まずは主治医に相談したうえで対応を検討してください。

主治医に相談を

射精の変化が気になる場合は、遠慮せず主治医に伝えてください。対応の選択肢は複数あります。

  • 薬の種類を変更する(射精障害の少ないα1D選択性の薬へ)
  • 薬の量を調整する
  • 別の作用機序の薬に切り替える(PDE5阻害薬など)
  • 妊娠希望がある場合は、生殖医療的な対応を検討

「たかが射精のこと」と我慢する必要はありません。QOL(生活の質)に関わる大切な問題です。

妊娠を希望している場合

射精障害で精液が外に出ない、または量が減っている場合でも、妊娠を諦める必要はありません。

  • 薬を調整・変更して自然な射精を回復させる
  • 逆行性射精の場合は、膀胱内から精子を回収して人工授精・体外受精に用いる方法もある

妊娠を希望されている方は、必ず主治医にその旨を伝えてください。前立腺肥大症の治療方針そのものを見直すこともあります。

よくある質問

Q1.精液が出ないと、体に何か悪いことがありますか?

基本的にありません。α1ブロッカーによる射精障害は、精液量の低下や無精液射精(dry ejaculation)が主体で、身体的な害はほとんどありません。妊娠を希望する場合は対応が必要です。

Q2.薬をやめれば射精は元に戻りますか?

α1ブロッカーによる射精障害は、多くの場合、薬をやめる・変更することで改善します(可逆的)。ただし自己判断で急に中止せず、必ず主治医に相談してください。

Q3.オーガズムは感じられますか?

多くの場合、オーガズム(絶頂感)は保たれると報告されています。ただし、一部の方では満足度の低下を自覚することもあります。精液が出ない・減るという変化が主な症状です。

Q4.射精障害が少ない薬に変えられますか?

可能です。シロドシン(ユリーフ)やタムスロシン(ハルナール)で射精障害が出ている場合、ナフトピジル(フリバス)など、α1D選択性の高い薬への変更で改善することがあります。主治医にご相談ください。

Q5.ED(勃起障害)とは違うのですか?

違います。EDは「勃起しにくい」状態で、射精障害は「射精・精液に関する」問題です。α1ブロッカーは勃起機能そのものには大きな悪影響を与えないことが多く、むしろ排尿症状の改善で性生活の質が上がる場合もあります。

まとめ

  • α1ブロッカーのうち、α1A選択性の高いシロドシン、次いでタムスロシンで射精障害が比較的多い
  • 多くは精液が出ない・減る「無精液射精(dry ejaculation)」で、必ずしも逆行性射精とは限らない
  • シロドシンは「精液集合の抑制」が主体で、射精後尿に精子を認めないことが多い
  • オーガズムは多くの場合保たれるが、一部で満足度低下を自覚することもある
  • 薬の種類変更・調整で改善できる(ナフトピジルは頻度が低め)
  • 自己判断で急に中止せず、主治医に相談を

前立腺肥大症の治療と、性機能・射精の両立は可能です。「薬を飲むと射精がおかしくなるから」と治療をためらう必要はありません。気になることがあれば、遠慮なくご相談ください。


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監修者

天拝坂こばやしクリニック 院長 小林 知広(こばやし ともひろ)

保有資格

  • 日本専門医機構認定 泌尿器科専門医
  • 日本メンズヘルス医学会認定 テストステロン治療認定医

経歴

  • 1984年 広島県尾道市生まれ
  • 2009年 島根大学医学部卒業・医師免許取得
  • 2009年〜 竹田病院→JR大阪鉄道病院(初期研修・泌尿器科)
  • 〜2017年 獨協医科大学越谷病院泌尿器科 助教(アンドロロジー・男性不妊専門外来担当)
  • 〜2024年 京都ルネス病院泌尿器科 部長
  • 2024年10月 天拝坂こばやしクリニック開院

所属学会

日本泌尿器科学会/日本メンズヘルス医学会/日本アンドロロジー学会/日本性機能学会

学術賞

第34回日本アンドロロジー学会学術集会 臨床部門賞 受賞(2015年)

英語査読論文(PubMed収録)

  1. Kobayashi T, et al. A questionnaire survey on attitude toward sperm cryopreservation among hematologists in Japan. International Journal of Hematology. 2017;105(3):349-352. PMID: 27844197
  2. Shin T, Kobayashi T, et al. Microdissection testicular sperm extraction in Japanese patients with persistent azoospermia after chemotherapy. International Journal of Clinical Oncology. 2016;21(6):1167-1171. PMID: 27306218
  3. Iwahata T, Shin T, Kobayashi T, et al. Testicular sperm extraction for patients with spinal cord injury-related anejaculation. International Journal of Urology. 2016;23(12):1024-1027. PMID: 27766729

日本語論文・総説

  • 男性更年期(特集:ストレスで悪化する内科疾患). Modern Physician. 2016.
  • 精子も卵と同じように老化する?. 泌尿器外科. 2016.
  • 精子のアンチエイジングは可能か. 腎臓内科・泌尿器科. 2015.
  • ゴナドトロピン・アンドロゲン(特集:内分泌機能検査Update). ホルモンと臨床. 2014.

参考文献

  1. EAU Guidelines on the Management of Non-neurogenic Male LUTS. 2026. uroweb.org
  2. Kobayashi K, et al. Inhibition of seminal emission is the main cause of anejaculation induced by a new highly selective alpha1A-blocker in normal volunteers. J Sex Med. 2008. PubMed
  3. Suzuki K, et al. Orgasm is preserved regardless of ejaculatory dysfunction with selective alpha1A-blocker administration. Int J Impot Res. 2009. PubMed
  4. Yokoyama T, et al. Silodosin versus naftopidil for the treatment of benign prostatic hyperplasia: impact on ejaculatory function. Int J Urol. 2013. PubMed
  5. AUA/SMSNA Guideline: Disorders of Ejaculation. auanet.org
  6. 日本泌尿器科学会. 男性下部尿路症状・前立腺肥大症診療ガイドライン(2017年版・2023年情報更新).

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