「治らない尿道炎」の正体?第3の性病「マイコプラズマ・ジェニタリウム」とは

小林知広

監修

小林知広

日本専門医機構認定 泌尿器科専門医


淋菌・クラミジアが陰性なのに排尿痛が続く…その原因は「マイコプラズマ・ジェニタリウム(MG)」かもしれません。欧米で急増中、かつ抗生剤が効きにくい「新たな性感染症」の症状、検査、治療法について泌尿器科専門医が解説します。



この記事は、日本泌尿器科学会認定 泌尿器科専門医の小林 知広 (天拝坂こばやしクリニック院長 プロフィールはこちらhttps://tenkoba.clinic/doctor/)が執筆・監修しています。

皆さん、こんにちは。 天拝坂こばやしクリニック、院長の小林です。

性病(性感染症)といえば、「淋菌(りんきん)」と「クラミジア」が有名ですよね。 しかし最近、泌尿器科の現場で、この2つの牙城を崩す勢いで増えている「第3の性病」が注目されています。

「淋菌・クラミジアの検査は陰性だったのに、まだおしっこするときに痛い」 「薬を飲んだのに、尿道炎が治らない」

もし、そんな症状で悩んでいるなら、その正体は**「マイコプラズマ・ジェニタリウム(MG)」**かもしれません。 今回は、欧米では既に「次世代の性感染症」として警戒されているこの病気について解説します。

マイコプラズマ・ジェニタリウム(MG)とは?

Mycoplasma genitalium(MG)は、非常に小さな細菌です。 かつては検査が難しく実態が不明でしたが、検査技術(PCR法)の進歩により、尿道炎や子宮頸管炎の主要な原因であることが分かってきました。

感染経路は他の性病と同じく、性行為(オーラルセックス、アナルセックス含む)による粘膜の接触です。

主な症状

淋菌やクラミジアと非常によく似ています。

  • 排尿時痛(おしっこをする時の痛み)
  • 尿道の不快感・かゆみ
  • 膿(うみ)が出る

なぜ「治らない尿道炎」と言われるのか?

この菌の最大の問題点は、**「普通の抗生剤が効きにくい」**という点にあります。

① 一般的な抗生剤が効かない構造

多くの抗生剤(ペニシリン系やセフェム系など)は、細菌の「細胞壁」を壊して菌を殺します。しかし、マイコプラズマはそもそも細胞壁を持っていません。 そのため、一般的な膀胱炎や風邪で出される抗生剤が全く効かないのです。

② 耐性菌(スーパーバグ)の急増

さらに厄介なのが、本来効くはずの薬に対する「薬剤耐性」です。

  • マクロライド系(アジスロマイシンなど): クラミジア治療の第一選択薬ですが、MGに対しては国内外で約50%以上が耐性(効かない)を持っています。
  • ニューキノロン系: こちらも10〜20%程度が耐性化していると報告されています。

このため、「とりあえず薬を飲んだけど治らない」というケースが頻発し、**「医者泣かせの性病」**とも呼ばれています。

診断と治療について

「検査で陰性だったから大丈夫」と思って放置してしまうのが一番危険です。 尿道炎の症状が続く場合は、必ずMGの検査を検討しましょう。

検査方法

当院では、PCR法を用いた精密検査が可能です(保険適用)。 尿を採取するだけの簡単な検査で、痛みはありません。

治療方法

検査でMGと確定した場合、耐性菌のリスクを考慮した特別な抗生剤を使用します。

  • シタフロキサシン(グレースビット)
  • ミノサイクリン
  • モキシフロキサシン(海外ガイドライン等で推奨される強力な薬)

※自己判断で手持ちの抗生剤を飲むと、耐性菌をさらに増やしてしまう恐れがあります。必ず専門医の指示に従ってください。

喉(のど)にも感染する?

クラミジアや淋菌は「喉(咽頭)」への感染が問題になりますが、MGはどうでしょうか? 現在の医学的見解では、喉からMGが検出されることはありますが、「喉の痛みなどの症状を引き起こす可能性は低い(病原性は低い)」とされています。

ただ、これはあくまで現時点でのデータです。私個人の意見としては、喉での病原性も完全には否定できないと考えています。オーラルセックスの機会がある方は注意が必要です。

まとめ:諦めずに専門医へ

  • 「淋菌・クラミジア陰性」でも、痛みが続くならマイコプラズマ・ジェニタリウムの可能性があります。
  • 通常の抗生剤が効かないため、専用の検査と治療が必要です。
  • パートナーの同時治療が必須です(ピンポン感染を防ぐため)。

「治らない」と諦めず、太宰府・筑紫野エリアの方は天拝坂こばやしクリニックへご相談ください。 当院では、最新の知見に基づいた適切な検査・治療を行っています。

【参考文献】

  1. CDC. Mycoplasma genitalium – STI Treatment Guidelines, 2021. URL
  2. CDC. Summary Wall Chart (STI Treatment Guidelines), 2021. PDF
  3. UKHSA. Mycoplasma genitalium Antimicrobial Resistance Surveillance (MARS) Report 2023. URL
  4. Machalek DA, et al. Lancet Infect Dis. 2020;20:1302–1314. PubMed
  5. Chua TP, et al. Lancet Microbe. 2024. PubMed
  6. Deguchi T, Ito S, et al. J Infect Chemother. 2018;24(11):861–867. PubMed
  7. Ando N, et al. Sex Transm Infect. 2021;97:… PMC
  8. 日本性感染症学会(2025改訂 草案)「マイコプラズマ・ジェニタリウム感染症」

この記事の監修者 天拝坂こばやしクリニック 院長 小林 知広(こばやし ともひろ)

【保有資格】
日本泌尿器科学会認定 泌尿器科専門医
メンズヘルス学会認定 テストステロン治療認定医

【経歴】
2009年 島根大学医学部 卒業 / 武田病院 初期研修
2011年 JR大阪鉄道病院 泌尿器科
2015年 獨協医科大学越谷病院泌尿器科 助教
2017年 京都ルネス病院泌尿器科・透析科 医長
2024年 天拝坂こばやしクリニック 院長

【受賞歴】 2015年 第34回アンドロロジー学会学術大会 臨床部門学会賞 受賞 (論文題:非閉塞性無精子症患者980人におけるAZF遺伝子欠失の頻度とTESEでの精子採取率および精巣病理組織像の検討)

【患者様へメッセージ】 「恥ずかしい」「相談しにくい」と感じがちな泌尿器のお悩みや男性更年期について、専門医が丁寧に診療します。お一人で抱え込まず、まずはお気軽にご相談ください。

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【院長コラム】マイコプラズマ・ジェニタリウム感染症 ― 新たな尿道炎の原因として注目

今回は人気の性感染症についてのコラムです。

性病と言えば淋菌、クラミジアですね。
これについてもいずれはコラムを書きたいと思います。
長らく尿道炎をきたす性病といえばこの二つでしたが、近年この牙城を崩す勢いで増えてきている尿道炎を引き起こす性病があります。

(注釈)尿道炎症状とは排尿時痛(おしっこして痛い)というものです。尿道炎を来たさない性病・性感染症については梅毒、HIV、肝炎(HCV,HBVなど)があります。

それがタイトルにもある通り マイコプラズマ・ジェニタリウム(MG: Mycoplasma Genitalium)です。
欧米で急増しており、罹患数は淋菌を超えたなんて報告もあります。


■ マイコプラズマ・ジェニタリウムとは

Mycoplasma genitalium は、細胞壁を持たない極めて小型の細菌様微生物です。1980年代に発見され、当初は臨床的意義が不明でしたが、近年の分子生物学的検査技術(PCR法など)の進歩により、尿道炎・子宮頸管炎などの原因として世界的に注目されています。
特に欧米では「次世代の性行為感染症(STI)」として警戒が強まっており、感染経路はクラミジアや淋菌と同様、性行為(オーラル・アナル含む)による接触感染です。


症状は淋菌やクラミジアと同じく排尿時痛(おしっこして痛む)が主な症状になります。
問題は薬剤耐性の強い株があり、難治性で長期に治療が及ぶことがある、培養が難しく抗菌薬の感受性検査が難しいという医者泣かせの側面を持ちます。

(補足)近年、国内外の報告ではマクロライド耐性株が約50%以上、フルオロキノロン耐性株も10〜20%程度存在するとされ、「効かない抗菌薬が増えている」ことが臨床現場で大きな課題になっています。


あまり浸透していないため尿道炎症状があっても淋菌クラミジアのみの検査で終わることがあります。
尿道炎症状が続くようならMGの検査を考えましょう。

実際、「淋菌・クラミジア検査で陰性だったのに痛みが残る」「治らない尿道炎」「抗生剤が効かない性病」などの検索キーワードで来院される患者さんも増えています。
こうしたケースの一部に、マイコプラズマ・ジェニタリウム感染症が関与していることがあります。


MGはマイコプラズマであり、細胞壁をもっておらず微妙に一般細菌とは異なります。
抗生剤の多くは細菌の細胞壁を壊すタイプなので、マイコプラズマにはこのタイプ(セフェムやペニシリンなど)の抗生剤が効きません。
テトラサイクリン系やニューキノロン系などDNAに作用する抗菌薬が治療に必要です。
クラミジア治療でよく使用されるアジスロマイシンは耐性が高く効果は限定的です。

(補足)現在の推奨治療法としては、ミノサイクリン(Minocycline)やモキシフロキサシン(Moxifloxacin)が有効とされますが、地域によって耐性率は異なります。
再発や再感染を防ぐため、パートナーの同時検査・治療も重要です。

クラミジアや淋菌感染症で時折問題になる咽頭感染ですが、MGで咽頭から検出することがありますが咽頭感染での病原性は低く現在のところは咽頭での病原性は否定的です。
院長の個人意見としては咽頭での病原性も否定はできないのと思っています。(エビデンスはありません)


当院では保険診療でのマイコプラズマ・ジェニタリウムの検査も可能です。
お困りの際には受診してください。
男性女性ともに検査・治療可能です。

参考文献

  1. CDC. Mycoplasma genitalium – STI Treatment Guidelines, 2021.
     MGの診断・治療(耐性時のモキシフロキサシンなど)を示す米国ガイドライン。
     URL: https://www.cdc.gov/std/treatment-guidelines/mycoplasmagenitalium.htm 疾病管理予防センター
  2. CDC. Summary Wall Chart (STI Treatment Guidelines), 2021.
     NGU遷延時の「ドキシ→モキシ」二段階レジメン等の要点を一覧化。
     PDF: https://www.cdc.gov/std/treatment-guidelines/wall-chart.pdf 疾病管理予防センター
  3. UKHSA. Mycoplasma genitalium Antimicrobial Resistance Surveillance (MARS) Report 2023.
     イングランドのMG耐性サーベイランス(最新更新2024/11/13)。
     URL: https://www.gov.uk/government/publications/mycoplasma-genitalium-antimicrobial-resistance-surveillance-mars/mycoplasma-genitalium-antimicrobial-resistance-surveillance-mars-report-2023 GOV.UK
  4. Machalek DA, et al. Lancet Infect Dis. 2020;20:1302–1314.
     世界のマクロライド/フルオロキノロン耐性率を統合したメタ解析。
     PubMed: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32622378/ PubMed
  5. Chua TP, et al. Lancet Microbe. 2024.
     近年データを更新した耐性メタ解析(地域別の最新傾向)。
     本文: https://www.thelancet.com/journals/lanmic/article/PIIS2666-5247(24)00315-X/fulltext
     PubMed: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40147462/ ランセット+1
  6. Deguchi T, Ito S, et al. J Infect Chemother. 2018;24(11):861–867.
     日本のMG耐性変異サーベイ(マクロライド/キノロン耐性の状況)。
     Full text / 概要: https://www.jiac-j.com/article/S1341-321X(18)30260-5/fulltext
     PubMed: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30190106/ Jiac+2サイエンスダイレクト+2
  7. Ando N, et al. Sex Transm Infect. 2021;97:…(PMC版あり)
     東京MSM集団での二系統耐性高頻度を報告。
     PMC: https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8242132/ PMC
  8. 日本性感染症学会(2025改訂 草案)。
     「マイコプラズマ・ジェニタリウム感染症」章/「男性尿道炎」章(最新改訂資料)。
     PDF(MG章): https://jssti.jp/pdf/2-12_2025.pdf
     PDF(男性尿道炎): https://jssti.jp/pdf/1-1_2025.pdf 日本性感染症学会+1

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